アタリなしで人物を描く方法(後編)

ロボットと睨み合うチルノ 描き方

突然ですが、「人物を描くコツ」って何だと思いますか?

もしこの問いかけに対してすんなり回答できる人であれば、この記事の内容は不要かもしれません。

きっと【前編】のイメージモデルだけで十分にアタリなしで人物を描くことができるでしょう。

しかしかつての僕のように、何年絵を描き続けても「絵を描くコツ」どころか「人物を描くコツ」すら掴めた手応えがないという人にとっては、何かヒントになるのではないかと思います。

今回はペン画に限らず、いくら描いても「人物を描くコツ」を掴めない原因について考えていくことにしましょう。

人物を描くコツ

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冒頭の問への僕なりの回答は、「人物を描くコツ=デフォルメorアタリ」です。

理由は単純。リアルな人物を描くより、デフォルメした人物を描くほうが人体構造を把握しやすくなり描くのが簡単になるから。

そしてアタリを使わないより、使って描いたほうが身体バランスが安定した人物を描きやすくなるからです。

更にアタリは、自分で学んだり気づいたりした描き方のコツを集約してアップデートしていくことも可能です。

そうやって自分に使いやすく磨き上げたアタリは、「人物を描くコツ」と呼ぶのにふさわしいスキルと言えるでしょう。

しかし「何年描き続けてても人物を描くコツが掴めない」と言う人は、恐らくデフォルメもアタリも既にマスターしていると思います。

それでもさっぱりコツが掴めないのはなぜでしょうか?

僕自身のケースで考えてみるとその原因は、求めていたものがただの「人物を描くコツ」ではなく、「かわいい人物を描くコツ」だったからです。

だって、マンガやゲームに登場するかわいいキャラクターを描けるようになりたくて絵の練習を始めたわけですから。

ルネサンス絵画ばりにスーパーリアルな人物を描けるようになったとしても、それだけじゃ意味がありません。

「人物を描くコツ」であれば、デフォルメやアタリで事足りるのですけど、「かわいい人物を描くコツ」はそれだけでは不十分だったのです。

ちなみに形容詞を「かわいい」から「格好いい」や「美しい」などに変えても話は同じです。

自分にしっくり来る形容詞に置き換えて読み進めてみてください。

かわいい人物を描くコツ

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デフォルメもアタリも「かわいい人物を描くコツ」になりえない理由を順番に解説します。

「デフォルメ≠かわいい人物を描くコツ」である理由

理由は2つあります。

理由1.身体バランスが崩れていると可愛くならないから

幼い子供の初期の絵は「頭足人」と呼ばれる、頭から手足が生えた1頭身の人物であることが多いそうです。

幼いのだから画力が未熟なのは当然ですけど、それを見ればデフォルメされていれば可愛いわけではないことがわかるでしょう。

理由2.頭身とパーツの相性を考慮できていないと可愛くならないから

それなりに身体バランスが整っていても、体全体のデフォルメ具合、描き込み具合が調和していないと「なんか違う」という違和感が生じてしまうのです。(詳しくは前編参照)

「ゆっくり(東方の1頭身二次創作キャラ)」がいい例でしょう。

デフォルメ度MAXの1頭身にしてはそこそこ描き込みも多く、微妙にアンバランスな顔パーツの配置によって、「変な感じ」を寄せ集めたなんとも言えない違和感を感じます。

一周回って「キモかわいい」って評価になっているかもしれませんけど、求めている「かわいい」とは別物のはず。

画力不足による「身体バランス」の不安定さと、デフォルメ下手による「頭身とパーツの相性」のミスマッチがありえること。

それが「デフォルメ≠かわいい人物を描くコツ」である理由です。

『ならばアタリで「身体バランス」を安定させて、デフォルメの「頭身とパーツの相性」を考慮すればいい。

つまり両方を組み合わせたイメージモデルこそ、「かわいい人物を描くコツ」になるというわけです!』

・・・とは残念ながらなりません。

「アタリ≠かわいい人物を描くコツ」である理由

所詮はアタリの派生系でしかないイメージモデルが「かわいい人物を描くコツ」にはなりえない決定的な理由があります。

その理由とは、「アタリには汎用性が求められる」ということ。

アタリは人体構造の共通エッセンスのみを集約し、人物から「個性」を排除することで、色んな人物に応用できる汎用性の高いスキルになっています。

なのでアタリ素体には個性を表す「体型、顔パーツ、髪型、服装、配色」などの描き方のコツは実装できません。

アタリ素体に個性を付与すると、その分だけ専用性が上がり、汎用性が下がって使いにくくなるからです。

イメージモデルは通常のアタリ素体に「頭身」要素を付与することで「頭身とパーツの相性」のミスマッチを回避し、「かわいさの再現性」を高めています。

その代わり、頭身別にモデルを用意する必要性が生じています。

ただ「頭身」だけなら多くても8種類程度で済むので、なんとか使い分けられる。

ここへ他の個性要素も追加しようとすれば、モデルの数は倍々に増えてしまい、とても使い分けられません。

それでもやろうと思えば、更に「体型、顔パーツ、髪型、服装、配色」の描き方のコツを可能な限り組み合わせて、より「かわいさの再現性」を高めることは不可能ではありません。

しかしそうやって極限まで再現性を高めた専用性99%の描き方を構築できたとしても、残る汎用性1%の部分でミスマッチな組み合わせが生じてしまえば「かわいい人物」は成立しません。

だからそれも「かわいい人物を描くコツ」にはなりえないのです。

・・・じゃあ、専用性100%なら?

スタンダードモデル

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そうです!!

専用性100%のモデルであれば、ミスマッチな組み合わせは生じないので「かわいい人物」は成立します。

アタリとデフォルメを組み合わせたものが「イメージモデル」。

そのイメージモデルへ「全表層部パーツの描き方」を実装したものが、「かわいい人物を描くコツ」となるスキル、「スタンダードモデル」です。

でも専用性100%ということは、汎用性ゼロということです。

つまり特定の人物を描く時にしか使えない。

それはもう「人物を描くコツ」と言うより、「特定の人物の描き方」と言ったほうが正しいかもしれません。

漫画やアニメ作成時に用意されるキャラクターの設定資料に近いですけど、「料理のレシピ」みたいなものと考えた方がわかりやすいでしょう。

決まった材料とその調理手順に従い、味付け調味料の分量をちゃんと守って作れば、誰でも美味しい料理の再現ができます。

それと同じ様に、「体型、顔パーツ、髪型、服装、配色」の材料、書き順、味付けを設定した特定キャラクターの描き方レシピ。

そのレシピどおりに描いていけば、その人物の「かわいさ」という味を再現することができるわけです。

キャラクターの「かわいさ」は特定のパーツから生じるものではなく、全体の組み合わせから生じる総合的認識。

だからどんなに顔を可愛く仕上げても、体との組み合わせがミスマッチでは「かわいさ」は消えてしまいます。

汎用性の高さは色んなケースに応用が効いて使いやすい反面、自由度が高くて組み合わせがブレやすい。

アタリと表層部パーツの描き方をバラバラに組み合わせて使っていれば、当然組み合わせのブレが生じ、可愛く描ける時もあれば描けない時もある。

だからコツを掴めた気がしなかったのではないでしょうか。

「こうすれば可愛く描ける」と確信を持てない方法では、どうしてもコツとは認められませんから。

しかし自分が「かわいい」と感じる組み合わせをアタリの素体部分だけでなく、全表層部パーツにまで適用させて描いたのであれば、その人物が可愛くならないはずがないのです。

スタンダードモデルの作り方

作り方はキャラクターの「描き方レシピ」を作るイメージです。

ちなみに、ここでは「材料、味付け」の設定方法について紹介します。
「書き順」については過去記事【知るだけで差がつくペン画イラストの書き順】を参考にして下さい。

作り方のフローは次のとおり。

スタンダードモデル 作り方フロー

①誰のスタンダードモデルを作るか決める
②体型を決める
③顔パーツを決める
④髪型を決める
⑤服装を決める
⑥配色を決める

①誰のスタンダードモデルを作るか決める

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スタンダードモデルは特定のキャラクターの専用モデルなので、最初に「誰」のモデルを作るかを特定する必要があります。

ここでまず考えるべきは「オリジナルキャラor版権キャラ」の二択。

もし版権キャラを選ぶ場合は、原作のデフォルメ版を作ることをオススメします。

原作キャラと頭身が同じだと、ただの原作コピーになってしまいがち。

スタンダードモデルは自身の好みや描きやすさを反映するのが大事なので、それだと作る意味がなくなってしまいます。

2頭身くらい離せば、必然的に自分なりのデフォルメ、アレンジをすることになるため版権キャラでも問題ありません。

②体型を決める

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基本的にスタンダードモデルは、【前編】で作ったイメージモデルの「基準頭身」をベースに構築していきます。

イメージモデルは頭身別に作りましたけど、スタンダードモデルは「基準頭身」のもの1種類だけで大丈夫。

理由は、自分にとって一番お気に入りの描き方を明確化するためです。

デフォルメ具合を調整するために別頭身のものを描いたりもするでしょうけど、「標準」がどの頭身なのかはハッキリさせておきましょう。

それと①で体型に特徴があるキャラを選んだ場合は、それをイメージモデルの素体に反映します。

巨乳キャラであれば、デフォルメされていても胸を描かないわけにはいきませんからね。

③顔パーツを決める

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顔パーツは微妙なレイアウト差で印象が変化するので、パーツ同士の間隔や配置などを調整し、しっくり来るレイアウトを模索しておきます。

顔パーツで一番個性が出るのは「目」です。

デフォルメキャラでも「目」の描き方でかなり印象は変わります。

どんな「目の描き方」が好みか、自分の過去絵や好きなイラストレーターの作品を参考にして決めましょう。

一応、デフォルメキャラなら「顔文字」で済ませてしまうのも一つの手です。

他にも顔を構成するパーツはたくさんありますけど、「目」以外は案外そのままでも他のキャラに流用が効きます。

あと、表情構成用である「目、眉、口」以外は形が変化することがほぼありません。

「目、眉、口」についてはある程度、表情ごとのパターンを用意しておいたほうが良いですが、それ以外の「鼻、耳、チーク」は形を一種類決めるだけで良いでしょう。

ちなみに「目、眉、口」は、次のように3パターンに分類すると整理しやすくなります。

目、眉、口の3パターン
  • 目、口:「開・半開・閉」
  • 眉  :「強・中・弱」
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もちろん、これらパターンの組み合わせによっては「かわいさ」が再現できない可能性もあります。

なので、まずは「普通の表情」で可愛くなるように顔パーツを組み合わせたものを「標準」としましょう。

④髪型を決める

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①で人物を特定できていれば、とりあえずヘアスタイルは決まっているでしょう。
ここでは、それをどんな風に描けば可愛くなるのかを調整します。

頭身によって、どの程度細かく描くのが良いかは異なります。

それにヘアスタイルが同じでも、光沢の付け方や好みの髪の描き方は人それぞれです。

版権キャラであっても、原作の描き方に縛られずに自分が描きやすく、かつ「かわいい」と思える描き方を模索しましょう。

⑤服装を決める

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①の人物の基準となる「普段着or制服」を決めましょう。

とりあえずバリエーションなど考えずに1種類だけ。

装飾品などもどこまで描きこむのか、そこも自分の「描きやすさ・かわいさ」を基準にして調整します。

⑥配色を決める

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一応ペン画で描くことを想定しているので色は白黒です。

でもハッチングの濃淡によってある程度は色の違いを表現できます。

なのでここでは「白い部分」、「黒い部分(ベタ)」、「濃いハッチ部分」、「薄いハッチ部分」を決めることになります。

塗り方一つとっても、それまで積み上げてきた「かわいさ」を乱すには十分な影響力があります。

特にハッチングは「素早く雑」になりやすいので、未来の自分のお手本になる線の引き方を明確化しておきましょう。

基本型が完成したらイメージモデルの基礎練習同様、8方向分のアングルでも描けるよう練習し、軽く準備運動をしながら描き慣らして行きます。

スタンダードモデルの使い方

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使い方は簡単。作ったスタンダードモデルを、自分の「人物の描き方」のスタンダード(基準)に設定するだけです。

汎用性ゼロで特定の人物を描く時にしか使えませんけど、「自分の描き方」の基準にすることはできます。

今後「人物の描き方」が分からなくなった時はスタンダードモデルに戻って来れば良い。

別のキャラクターを描きたいと思った時は、それを参考にして描きたいキャラ専用のスタンダードモデルを作ればいいわけです。

1つ基準となるルールが定まっていれば、あとはそれを応用して別のキャラでも「かわいさの再現性」を確保できるようになると思います。

スタンダードモデルには、これまであなたが蓄積してきた「かわいい人物を描くコツ」が可能な限り集約されているはず。

その事実を作者のあなただけが理解できる。

だからスタンダードモデルを完成させたあとなら、「人物を描くコツって何だと思いますか?」の問いかけに答えられるはずです。

その答えは言葉にできなくても、他人と共有できなくても問題ありません。

自分のスタンダードモデルを見て「これがそうだ」と思えればそれで良いのです。

そう思えたら、過去記事【絵のモチベーションを底上げする!イラストチューニングのコツTOP5(後編)】で紹介したマイハウツー本にまとめておくことをオススメします。

そして迷った時はいつでもそこに戻り、新しく気づいたことがあれば随時アップデートを重ねて行きましょう。

まとめ
  • スタンダードモデル=イメージモデル+全表層部パーツの描き方
  • 「かわいさ」は全体の組み合わせから生じる総合的認識
  • 「人物を描くコツ=自分のスタンダードモデル」と思えたならおめでとう

あとがき

最後にひっくり返すようでアレなのですけど、この記事を読んでイメージモデルとスタンダードモデルを作ってみたとしても、やはり「人物を描くコツ」を掴めないという人もいると思います。

でもそれは普通のことです。

僕が「とにかく描け」の教えでは全然上達できなかったように、

松村上久郎さんの教えだけでは下描き卒業ができなかったように、

イメージモデルとスタンダードモデルでは「人物を描くコツ」を掴めない人がいるのも当然のことだと思います。

あくまでも「僕はこの方法でコツを掴めました」って体験談に過ぎないのですから。それが万人に適用されるはずがありません。

そもそも「コレが正解」なんてものはどこにもないでしょう。

「質」と「量」のどっちが大事かを追求してみてわかるのは、どちらも大事で、重要なのはバランスだということ。

たくさん描けばいいわけではないけれど、こだわって描けばいいわけでもない。

そんな葛藤の中でも手探りで絵を描き続け、実力、知識、価値観、自己評価、ハードル設定など色んな要素が特定の組み合わせに至った時、「コツ」という総合的認識は成立するのだと思います。

この記事がそのための小さなヒントになれば幸いです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

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誰でも簡単にVTuberの3Dモデル(アバター)を作成!アバターの表情やポーズを決めてSNSに投稿したり、配信アプリと連携してVTuber配信ができます。

▲スタンダードモデルのポーズや服装のバリエーションを増やすには着せかえゲームアプリが役立ちます。

個人的にデフォルメ調なら「イージースタイル(上)」、リアル調なら「カスタムキャスト(下)」がオススメ。

どちらも課金せずとも十分参考にできますし、デッサン人形の代わりにもなります。

何よりキャラがカワイイので、一度お試し感覚で遊んでみると良いと思います。

次の記事では【下書きなしで絵を描くためのイージーモード戦略】で先送りしていた、背景攻略の取っかかりになるスキル、「模様」について解説しています。

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