ブラック労働を理由の一つとして会社を辞める。
その後、ネットで「退職後 やるべきこと」などのキーワード検索をしてみて出てくるのは、
・失業保険の申請
・年金、健康保険の切り替え手続き
・住居確保給付金の申請
くらいのものです。
なぜか僕らは「未払い残業代の請求」という選択肢について考えることもしません。
その理由は単純に「選択肢があることを知らないから」です。
知らないのだから検討もしない。
でも知ってしまえば、やり方は「超簡単」です。
在職中は厳しくても、退職後は誰もが試してみる価値があると思います。
僕がその選択肢に気づいたのも、前職の市役所を退職してから4ヶ月後のこと。
そこから実際に未払い残業代請求をしてみた体験談をベースに、請求の方法を紹介しようと思います。
ちなみに時効は3年。
退職したらそこから請求可能範囲が日に日に削られていくため、退職後に請求するのであれば早いほど得です。
なのでここ3年以内に退職・転職した方、近々退職予定の方、予定はないけど日々のサービス残業に疲弊している方は是非、選択肢の一つとして覚えておくことをオススメします。
未払い残業代請求のやり方
僕が未払い残業代請求をしようと思ったキッカケは、ツイッターで見かけた「ブラック企業社員は残業代請求すればいいのに」という内容のツイートでした。
この時既に、毎日サビ残漬けの市役所を退職してから4ヶ月経っていました。
僕は「確かに。むしろなぜ自分は請求しないんだ?」と疑問を抱き、残業代請求の方法についてネット検索をしてみると、やり方は基本的に「弁護士事務所に相談する」だけ。
費用も思ってたよりかからない。
これはいけるんじゃないかと思い、翌週、近場にあった弁護士事務所を訪問した次第です。
その訪問準備から結果が出るまでのステップは次のとおり。
①未払い残業代の算出
まず、自分の未払い残業代がどの程度の金額なのかを確認します。
弁護士相談・依頼するだけなら基本的に1~2万で済みますけど、無事未払い残業代を回収できた場合には弁護士への成功報酬が必要になります。
そこで最低20~30万は必要となるため、事前にそれ以上の回収見込みがあるのかを把握しておく必要があります。
とは言っても、厳密に計算する必要はありません。
ネットで無料診断することが可能ですので、そこで概算いくら位かを把握できれば、相談に行くべきかを判断できます。(▶残業代チェッカー)
②「用意するもの(※上記)」を準備
未払い残業代があることの証拠資料を用意します。
全く証拠資料を持っていなかったとしても、民間企業であればタイムカードなどの勤怠記録を5年間保存しなければならないと労働基準法で定められているため、弁護士が開示請求することで取り寄せることができます。
公務員のように未だにアナログで勤怠管理していて、証拠が残らないようにしている企業であれば難しいですけど、そうでないのであれば相談してみる価値はあります。
また相談時間を有効活用するためにも、予め疑問に思っていることを質問リストとしてまとめておくと良いでしょう。
それらの質問に面倒臭がらず丁寧に答えてくれるかどうかで、信頼するに足る弁護士かどうかを測る指標にもなります。
③弁護士事務所の選定
準備が整ったら相談しに行く弁護士事務所を選びましょう。
わざわざ東京の有名事務所を尋ねる必要はありません。
会社から遠いと出張費を請求される場合もありますし、大手事務所は全国展開していますので、近所の弁護士事務所の中から費用や印象で決めるのがいいでしょう。
ネットで調べてみると「相談料・着手金無料」なところが多いです。
僕が依頼した事務所も同様で、会社に内容証明郵便を通知する事務手数料として1万円(税抜)かかっただけです。
なのでHPを見て、相談から依頼までの初期費用が大体1~2万より高いところを避けるようにすれば最低限はクリア。(公務員は扱いが異なるので若干割増になるケースもあり)
あとは成功報酬の比較と、残業代請求に慣れていそうかなどの印象から判断すると良いでしょう。
④弁護士相談&依頼
弁護士事務所を選んだら、電話をして相談日の予約を取りましょう。
電話の中で未払い残業代の概算額や必要書類などの話も出てくると思いますので、メモや資料を用意しておくと良いです。
あとは当日、担当弁護士に状況を説明し、未払い残業代の回収見込みがあるかどうかを判断してもらいます。
そこで費用の説明なども聞いた上で、依頼するかどうかを決めます。
その場で決める必要はありませんけど、そこで依頼に抵抗を感じる場合は一旦保留にして別の事務所にも相談してみるのが良いと思います。
成功報酬はそれなりに大きな額になるので、依頼するなら信頼できる相手を選んだほうが良いです。
⑤弁護士事務所から会社へ通知
依頼することが決まれば、近日中に弁護士事務所から会社へ「内容証明郵便」を送るところから手続きがスタートします。
これは「いつ、誰が、誰宛に、どんな内容の文章を送付したか」を郵便局が証明してくれるサービスです。
これによって3年間の時効の進行がストップされ、残業代請求権の消滅を防止できます。
この通知をした時点から3年前までの未払い残業代を請求することになります。
⑥結果報告待ち
弁護士事務所と依頼契約を結んだら、もう自分でやるべきことは特にありません。
未払い残業代の正確な計算や、その後の会社との交渉も全部おまかせでOKです。
時折、進捗報告や、資料の内容について質問の電話を受けることがある程度。
請求手続きには「交渉▶︎労働審判▶︎裁判」の段階があります。
交渉段階で支払いを承諾してもらえるのが一番望ましいですけど、会社が支払いを拒否して来たら裁判や労働審判(裁判の簡易版)で対応する必要性も出てきます。
その場合は改めて弁護士に相談しながら対応を決めましょう。
どちらにしても、結果報告まではゆるりと待つのみです。
心配事Q&A
やることは「弁護士事務所に相談する」だけですけど、やはりよく知らないことをやるのは不安なものです。
なので、当時の僕が抱いてた心配事・疑問についてのQ&Aをまとめておきます。
Q1.手間・費用・難易度は?
手間は弁護士相談するだけ。
相談から依頼までの初期費用は大体1~2万円。
(これより高いとこはオススメしない)
交渉段階で支払いが確定した場合の弁護士への成功報酬は、回収金額のおよそ20~40%。
裁判にもつれ込むと時間も費用も一気にかさむので、そこの判断は慎重に。
難易度は、ググれる人なら楽勝。
「未払い残業代請求」についてざっとネット検索していくことでができれば、よくわからないことによる不安も解消されていきます。
ちなみにこちらのYouTube動画を見るとイメージをつかみやすくなると思います。
Q2.請求がうまくいく見込みはどの程度?
人それぞれ条件が異なるので弁護士に相談してみないとわかりません。
ただ僕が弁護士から聞いた話や情報収集した中から判断するに、民間企業なら見込みは高そうです。
予算がガチガチに固められている行政と違って、社長の一存で対応を決めることができるため交渉の余地が大きい。
また事例も多いため、類似条件の事例を元に弁護士が精度の高い見込み判断をしてくれると思います。
なので証拠がなくても相談してみる価値はあります。
しかし公務員は厳しい。
事例が圧倒的に少なく、しかもその少ない事例を見ると、未払い残業代の証拠が明らかであっても支払いを拒否され、裁判するか否かの判断を迫られる可能性が高いことがわかります。
それでも勝訴例はあるので、客観的証拠が十分にあるのであれば挑戦してみる価値はあります。
逆に、証拠不十分である場合には勝ち目は薄いでしょう。
Q3.請求することで生じるデメリットは?
基本的にデメリットはありません。
裁判にならなければ請求手続きから交渉まで全て弁護士がやってくれますから、初期費用以外のコストはかかりません。
ただし、裁判をする場合は費用が激増するリスクがあるので注意が必要です。
裁判するか否かは自分で決められる事なので、勝てる見込みが微妙な時は諦めも肝心です。
他に強いて挙げるのであれば、元職場と繋がりがあるとちょっと気まずくなるくらいでしょうか。
しかしあなたが残業代請求を行うことで、労働環境が改善されるキッカケになるかもしれません。
そう考えれば気まずく感じる必要もないでしょう。
Q4.弁護士相談以外の方法もある?
一応、認定司法書士、社労士、行政書士に依頼することも可能です。
その場合、弁護士費用よりも安くなる可能性はありますけど、未払い残業代が140万未満の案件しか受けられなかったり、代理できる業務範囲が制限されていたりします。
そのため残業代請求においては三者とも弁護士の下位互換になってしまい、状況に応じた柔軟な対応ができません。
費用を節約した結果、余計に手間を増やし、結果的にコストが大きくなる可能性も高いです。
また、自力で請求することも可能ではあります。
法律に則って自分で未払い残業代を計算し、内容証明郵便を送付して会社と直接交渉すればいいわけです。
しかし結構な労力が必要と思われますので、法律に詳しく、よほどやる気と自信が無い限りは難しいでしょう。
なので、最初から弁護士一択で考えるのが一番簡単です。
Q5.労働基準監督署にも相談に行くべき?
行かなくても大丈夫です。
労働基準監督署は違法状態が明らかであれば是正指導してくれる可能性はありますけど、個人の残業代請求を仲介してくれるわけではありません。
結局、請求は別途行う必要があります。
もし自力請求を選んで難航している場合であれば、後押しを求めて相談してみるのもありかもしれません。
Q6.未払金回収できたら「収入」になる?
なります。
過去の給与を多めにもらっていたという扱いになり、時間をさかのぼって課税の対象となります。
なので、回収できたら支払手続きについて税務署へ相談しに行きましょう。
未払い残業代請求の体験談
参考までに、僕の体験談を紹介します。
既に書いたように、キッカケはTwitterで「ブラック企業社員は残業代請求すればいいのに」という内容のツイートを見て「なぜ自分は請求しないんだ?」と疑問に思ったことです。
僕が以前働いていた市役所の部署はどこも残業が慢性化しており、ひどい年は時間外労働が毎月100時間超えの状態でした。
しかし公務員は決められた予算内からしか残業代が出せないため、毎月マックスでも15時間分程度の残業代しかもらうことはできません。(予算を多く確保できている部署ほど上限が高い)
それなのに「ここで働き続けたいなら皆と同じように割り切らないといけないよな」と思っているうちに、「残業代が満額でないのは当たり前」という価値観に疑問を持たなくなってしまいました。
6年間勤めてみて「一生この仕事続けるのは無理」と判断して退職したあとも、その価値観は変わらず。
それが退職後4ヶ月目に偶然目にしたツイートによって、「いや、やっぱおかしいよな」と気付かされ、ようやく洗脳から目が覚めました。
そこからネットで情報収集をして「これは請求しないと損だろ」という判断に至り、弁護士事務所に依頼することを決めたわけです。
あとは第1章に書いたとおりの流れで弁護士事務所に依頼を完了し、結果報告が来るのを待つだけの状態になりました。
その結果は、残念ながら『敗北』でした。
結論が出たのは、弁護士が市役所に通知をしてから約半年後。
市役所側に残業代請求された事例がないことや、誰が支払い判断を下すべきなのかが法律・条例を見ても明確化されていないなどの理由により、時間だけが過ぎてしまったようです。
弁護士からの報告内容は次のとおり。
一応、証拠としては次のようなものがあったのですが、これらでは客観的証拠として認められませんでした。
残業メモは「あくまで個人の主張でしかないので事実と認められない」として否定され、残業時間アンケートも「申告時間に間違いがないかは確認していないため正確な記録とは認められない」という理由で否定されました。
そんなアンケートを取っている時点で未払い残業代が存在することは明らかなのですけど、市役所側も「支払いは断固拒否する」というより、現状の情報では「判断ができない」という感じだったそうです。
なんだそりゃって感じなのですけど、確かに行政は「判断根拠」を明確化しないと何も判断できない立場なのも事実です。
市議会で協議するという方法もあったようですが、それをしていると内容証明郵便によってストップしていた時効の猶予期間半年を過ぎてしまう恐れがある。
なのでもう裁判に進むしかないというタイミングでの報告だったようです。
しかし、弁護士から聞いた過去に公務員が残業代請求で裁判を起こした事例をネットで調べてみましたけど、未払い残業代の客観的証拠がそろっていながらも、別の理由で支払い拒否をされています。
どちらも最終的に職員側が勝訴していますけど、第一審判決に行政側の不服申立があり、高等裁判所までもつれこんで2年以上かかっています。
客観的証拠がそろっていてもコレなんですから、仮に残業時間アンケートの実施目的を指摘して裁判を起こしたとしても、どうにか理屈をつけて食い下がられることでしょう。
そして公務員の残業代請求はあまりにも事例が少ないので結果を予測することは難しく、役所の立場的に譲歩はありえない。
弁護士が算出してくれた未払い残業代は「約240万円」でしたけど、勝てる見込みが低すぎるギャンブル裁判をする覚悟は持てず、請求を諦めることとしました。
これで僕の体験談は終わりです。
後日、最初に提出していた資料と、弁護士が市役所に開示請求した資料を郵送で返却してもらい、手続きは完了となりました。
ここまででかかった費用は、内容証明郵便の事務手数料1万円(税抜)のみです。
担当弁護士の方、半年間お疲れさまでした。
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あとがき
結果として未払い残業代は回収できませんでしたけど、やってみなければわからなかったことをたくさん学べました。
特に公務員の残業体質は闇が深いなと。
むしろ退職して正解だったなという気持ちが強くなりました。
しかし全ての行政組織が同じ対応をするとは限らないので、公務員であってもダメ元で請求してみる価値はあると思います。
実行することで「サビ残するのは仕方ない」という洗脳が解けて、泣き寝入り体質も改善されるでしょうから。
対して民間企業だったらやらない理由がありません。
「会社を辞めたらまずは未払い残業代を請求する」
一部のホワイト企業を除き、それがサラリーマンの常識になれば、間違いなく日本の労働環境は改善されていくでしょう。
今後一人でも多くの人にこの価値観が拡散されていくことを願います。
サービス残業が当たり前のブラック起業で長く働いていると、退職する気力すら枯渇してしまうものです。
そんな時は退職代行サービスを使ってみるのも1つの手。弁護士運営のサービスであれば、残業代請求もまとめてできるので一石二鳥です。
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