イラストで人物を描く際、まず最初にするのはアタリを取ることではないかと思います。
アタリを取っておくことで、どんなポーズを取ろうとも身体バランスが崩れるのを防止できます。
しかし一発描きのペン画においては、アタリという便利ツールを使うことができません。
そうなれば当然、身体バランスは崩れやすくなってしまいます。
このペン画における大きな障害、「身体バランス崩れやすい問題」を攻略するにはどうすればいいのでしょうか。
「身体バランス崩れやすい問題」の攻略法
速攻で結論を述べると、攻略法は「イメージモデル」を習得することです。
僕が勝手に名付けたスキル名だけ聞いても意味不明だと思いますので、最初にこのスキルがどういうものかを解説していきます。
イメージモデルとはアタリの代替スキルであり、「身体バランスを整える補助線」という位置づけは同じです。
両者の明確な違いは一つだけ。
アタリは実際に描いて視覚化するのに対し、イメージモデルは何も描かずに想像力のみで使うという点です。
要は、アタリを想像力のみで使えるようにした「エア・アタリ」と考えてもらうとわかりやすいと思います。
実際に線を引かなくても良いのですから、補助線を消せないペン画でも問題なく使えます。
使いこなせれば十分にアタリ同等の機能を果たしてくれるため、これで「身体バランス崩れやすい問題」は攻略できるというわけです。
イメージモデルの習得法
では次にどうすればイメージモデルを習得できるのかを、使い方と共に解説していきます。
アタリをベースにしたスキルなので、これまで十分にアタリを活用してきた方であればスムーズに習得できると思います。
習得のステップは次のとおりです。
①イメージモデルの素体を作る
まずは想像のもとになる素体を作ります。
素体は頭身別に作ったデッサン人形みたいなイメージです。
作り方の詳細は次章にて説明しますので、まずは使い方の流れだけ掴んでください。
②資料なしでも描けるよう練習
素体が完成したら次は練習です。
色んなポーズやアングルで描いてみて、身体パーツの比率や形状を覚えます。
やり方は基本自由ですけど、次の参考メニューをやっておけばとりあえず最低限は使えるようになると思います。
パーツの前後関係を意識して線が重ならないように描きましょう。
慣れないと最初は難しいと思います。
コツは「人形を動かす」ような意識で描いてみることです。
人形なので、何も考えずに描いても棒立ちのまま動かないのがデフォルト。
それが「こう動かしたい!」と思って描くことで、ぎこちないながらも腕や足をちょっと動かせるようになる。
それだけで十分すごい事だと捉えましょう。
「腕を上げるとこんな感じ?」、「足を動かすとバランス取るために反対の足はこうなる?」というちょっとした動きに対して、描きながら対応していく意識を持てればOKです。
「生きた人間」だと捉えてしまうと、どうしても派手なポーズとか、アオリ・フカン構図で躍動感を求めてしまいがち。
でも慣れないうちからそれらを描こうとしても苦しいだけです。
まずは「動かすだけでも大変な人形」だと捉えて、じっくり基本動作・構図をマスターしていきましょう。
③人物を描く際に素体のカタマリ感をイメージしながら描く
ある程度練習したら、実際にイメージモデルを使っていきましょう。
使い方のコツは、「カタマリをイメージしてから描く」という意識を持つことです。
半袖から腕を伸ばす際、スカートから足を伸ばす際などに、腕や足がどのように胴体とつながっているのかをイメージします。
服の下のどの辺に付け根があり、そこからどんなラインで外部に伸びているのか。
視覚化されていない素体の存在を、想像力で紙の上に浮かび上がらせてください。
明確な「線」が視える必要はありません。
そこに何らかの「カタマリ」があるという、ボンヤリした「存在感」を感じ取れればOKです。
これをすることで変な位置や方向に手足が伸びたり、アンバランスな長さになることを回避できます。
さらに服の外にある身体パーツを描く際にも、まず素体のカタマリ感を想像してから、それの外周をなぞるように線を引く意識を持ちましょう。
服を描く際には、素体の外周を包み込む感じですね。
ちょっと面倒くさいですけど、想像力の筋トレだと思って続けて行くことでアタリなしでも人物を描けるようになります。
使いこなせれば、人物以外にも応用できるようになっていくでしょう。
④使いこなせるまで2~3を継続
あとは定期的に素体練習を行い、毎回人物を描く際にイメージトレーニングを意識するだけです。
ここまで実際にやってみた方は気づくかもしれませんけど、イメージモデルとは本番前の準備段階でアタリを描いているようなものだと捉えることもできます。
なので特殊スキルや裏技でもなんでもないし、「人物を描くのにアタリなんて不要!」というわけではないってことです。
単にペン画本番でアタリを描くことができないから、アタリの機能を事前練習で頭に叩き込み、エア・アタリで代用しているだけ。
だから当然、複雑なポーズや構図は事前に素体で描けるようになっておかないと本番で描くことはできません。
下描きありの時のように、「描きたいものからの逆算」ではペン画は上手く描けないのです。
描きたいものと実力とのギャップを埋めるための下描きが使えないのですから。
なのでイメージ精度を高めたり、イメージできるポーズ・構図の幅を広げたいと思うのであれば、まず「描けるものからの加算」というスタンスに切り替えなければいけません。
つまり素体練習という基礎練を地道に続けて「描ける範囲を広げる」ことが、下描きなしで人物を描くための一番の上達法なのです。
基本動作・構図の基礎がしっかり身についていないと、いくら複雑なポーズを練習しても全然身につかずに消耗してしまいます。
イメージモデルの作り方
使い方のイメージを把握できたら、あとは実際にイメージモデルを作ってみましょう。
具体的な作り方のステップは次のとおりです。
①基準となる頭身を選ぶ
まず、あなたがメインとして使いたい頭身を選びましょう。
その頭身の素体を基準にして、デフォルメ具合などを調整していくことになります。
一応、最初は2~4頭身でデフォルメキャラ用の頭身をオススメします。
更に描いていて「気楽」に感じるものがベスト。
理由はその方が習得がスムーズだからです。
何より「デフォルメキャラであれば下描き不要で描ける」という状態に到達できれば、ペン画にも自信が持てます。
そのベースを構築できたあとであれば、高頭身のリアル調キャラクターにも応用していくことができると思います。
焦らずスモールステップで進むのが習得のコツです。
デフォルメキャラの描き方に慣れていない方は、伊達爾郎さんという方がpixivで色んな種類のデフォルメ素体の描き方を紹介しているので、好みの素体を選んで参考にすると良いと思います。
②1~(基準頭身+1)頭身までの身体パーツ比を把握
僕の場合は4頭身がメインなので、1~5頭身までとなります。
「+1頭身」とする理由は、基準頭身の情報量が増えすぎないよう調整するためです。
4頭身には過剰だと感じる要素は5頭身に繰り上げる。それによってバランスの取れた素体になります。
逆に「-1頭身」より下まで含めている理由は、デフォルメ度をMAXまで引き上げて描いてみることでデフォルメが上手くなるからです。
デフォルメが上達すると、キャラクターの特徴を掴むのが上手くなり、情報を取捨選択して描く負担を調整しやすくなります。
数が定まったら、あなたのアタリの描き方を応用し、人物のベースとなる素体を正面棒立ちの姿勢で描いていきます。
そして頭サイズを基準にした身体パーツの比率を、頭身別にメモしながら把握していきましょう。
最低限として、「頭:胴:足」が把握できれば大丈夫です。
「腕」については「手首の位置は股下あたり」と覚えておけば「胴」の長さを基準に把握することができるので、無理に覚えなくても問題ありません。
③自分の上手い過去絵を参照し、バランスを良くする要素を反映
人物が上手く描けていると感じる過去絵を振り返り、バランスの良さを成立させている要素をピックアップします。
見つけた要素を素体に反映し、形状を調整しましょう。
④自分の下手な過去絵を参照し、バランスを改善する要素を反映
人物があまり上手くないと感じる過去絵を振り返り、バランスの悪さの原因をピックアップします。
見つけた原因をどうすれば改善できるかを考え、素体に反映しましょう。
3頭身キャラの頭は凹凸がないまんじゅう型がかわいいですけど、同じ頭を6頭身に乗っけると違和感だらけであまりかわいくありません。
逆に漫画の登場人物のようにアゴが適度に尖った6頭身萌えキャラの頭を3頭身に乗っけると、今度はキモさしかありません。
頭身別に人物の描き方を整理してみると、そういった「頭身とパーツの相性」も絵の良し悪しに大きく影響することがわかってきます。
この組み合わせによって生じる「かわいさ」や「格好良さ」は、当然人によって異なるため、他人の描き方をコピーするだけでは見つけられません。
なので僕の具体例や他の人の描き方はあくまで参考。
イメージモデル作りでは自分の過去絵を振り返り、自分が「いい感じ」と思える組み合わせを見つけていく必要があるのです。
その組み合わせを把握できると、今後はキャラクターのかわいさや格好良さをより安定して描けるようになっていくでしょう。
それでは、後は第2章に戻って実践あるのみです!
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あとがき
今回記事を書く上で、僕がイメージモデルを思いついた経緯を振り返ってみました。
ヒントになったのは、やはり過去記事【絵を描くのをための閉めなかった僕が下書きをやめて救われた話】で紹介した松村上久郎さんの動画です。
まず彼の初期動画で紹介されていた主に3つの方法によって、僕は下描きなしでも人物を描けるようになりました。
これだけでも当時の僕にとっては革命的な進歩でした。
しかし、どうしても人物に動きをつけると身体バランスが崩れやすい。
そしてキャラを安定してかわいく描くことができない。
これらの壁、つまり「身体バランス崩れやすい問題」にぶつかってしまい、ペン画でイラスト作品を描くことに挫折してしまいました。
そこから約1年後、この問題に再チャレンジすることを決め、改めて攻略法がないかを考えてみました。
その結果わかったのが、第3章④で書いた「頭身とパーツの相性」という組み合わせの原則です。
アドリブだけでキャラクターを描き進めていくと、序盤に想定していた頭身よりも体が大きくなったり小さくなったりすることが多々ある。
そのちょっとした変更によって、「4頭身用の頭が5頭身に乗ってる状態」などから違和感が生じ、「なんかかわいくない・・・」という印象になっていたわけです。
それ以外にも元々そんなに頭身を気にしてなかったのもあり、何となくで悪い組み合わせを描いてしまうことも多々ありました。
その事に気づいて頭身別にパーツの組み合わせルールを整理して行った結果、松村さんから学んだ「カタマリを置く感覚」と結びついて、イメージモデルという「カタマリ人形」が誕生したのです。
これによって人物のカタマリ感覚が一気に掴みやすくなり、大きく動かしても身体バランスが安定するようになりました。
こうして見事、「身体バランス崩れやすい問題」は解消されたのでした。
でも、実はまだこの記事は「前編」です。
「アタリなしで人物を描く方法」は、「後編」で紹介するもう一つのスキル「スタンダードモデル」で完結します。
まずはここまで読んでいただきありがとうございました。
▲デフォルメキャラのポーズを考えるのに役立つ4頭身ドールです。
正座ができてしまうほどヒザの可動範囲が広く、足裏にマグネット付きのタイプであれば片足立ちも可能。
デフォルメキャラの構造を把握しやすくなるので、エアアタリのイメージ精度を高められます。
次の記事では、アタリなしで人物を描くためのもう一つのスキル「スタンダードモデル」を解説しています。
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