イラスト作成をしていて、こんな風に思ったことはありませんか?
アイディア出しでラフ案を描いてる時って何でこんなにイライラするんだろ・・・?
僕はデジタルイラストを描いていたとき、アイディア出しのラフ画工程が一番嫌いでした。
いいアイディアが中々出ないというのもありましたけど、それ以上に「雑で下手で退屈な」自分の絵を見るのがストレスだったからです。
もしあなたが何年絵を描いても自分で描いた絵を好きになれない悩みを抱えている場合、解決の鍵はこのイライラの中にあります。
今回の記事では、ラフ画のイライラを解消し、ペン画上達の必須マインドである「丁寧」について解説します。
ケアレスミス対策としての「丁寧」
ペン画のケアレスミス対策として「書き順」に続くスキルが「丁寧」です。
その効用は非常にわかりやすい。
ゆっくり丁寧に絵を描いていれば、ミスりそうになった瞬間に気づいてその場で一時停止したり、軌道修正を図ることができます。
それは素早くサラサラと描いていては難しいことですが、ゆっくり描いている時には簡単になります。
走っているときと歩いているときで、何かにつまづいた場合にどちらのほうが転ばずに姿勢を保てるかを考えればイメージしやすいでしょう。
そんな風に自分で線をコントロール可能な「転ばない速度」で描くこと。
たったそれだけのことですけど、ペン画のケアレスミスは劇的に減ります。
逆にその速度を超えるとコントロールを失うので、描いていて不安になったりミスが増えてイライラしてしまいます。
適切な速度は人それぞれだと思いますけど、まずはトコトンゆっくりにしてみるのが良いと思います。
トコトンゆっくり描いてみると、サラサラ描いている時にはわからなかった「線の流れ」を感じ取れるようになります。
「線の流れ」とは、線を引く時に感じる、進みやすい方向・進みにくい方向や、線の張り・勢いなどの感覚です。
そうしたら、あとはその感覚をキープしやすい速度を徐々に調整していく感じ。
修正ができないペン画において、「素早く雑に」から「ゆっくり丁寧に」へ意識をシフトさせることは必須事項です。
絵を好きになるための「丁寧」
ケアレスミス対策としては以上ですけど、「丁寧」に描くことの効用はもっと大きいものです。今回の本題はむしろそちらになります。
当たり前すぎて意識するまでもないもののように思えますけど、「自分で描いた絵を好きになれない」と感じている人はこのスキルを身につけることができていない可能性があります。
僕もその一人でした。
それが変わったキッカケは、松村上久郎さんの電子書籍『下描きもパースも卒業できる!あなたが本当に知るべき”たったひとつのこと”』の中の次の文章です。
”一本の線を引くことが楽しければ、絵を描き始めてから描き終えるまで、ずーっと楽しいままでいることができます。”
引用元:松村上久郎『下書きもパースも卒業できる!あなたが本当に知るべき「たったひとつのこと」』:p.98
この文章を読んでから、一本の線を引く感覚を意識するようになりました。
すると必然的に「ゆっくり丁寧」に描くようになります。
そしてある時気づいたのが、丁寧に描いた時の絵には不思議な好感が抱けるということです。
単に上手く描けたということではなく、「いい感じ」に描けたという心地よい印象を抱く。
それは素早くサラサラ描いた時には消えてしまいます。
でもちゃんと丁寧さを意識し直して描くと「いい感じ」は復活する。
この感じは、字を丁寧に書いた時の感覚に似ているなと思いました。
当たり前ですけど、楽に素早く書くことばかりを重視した字は汚くなります。
そういう字ばかり書いていると自分の字を見るだけでイライラするし、自分の字が嫌いになる。
ある時、僕はそんな自分の字が嫌で雑字ストレスをどうにかしたいと思ました。
そして小学校の頃に宿題でやらされたような書き方ドリルを買って、字を書く練習を始めてみたのです。
結果としてそこまで上達したわけではありませんけど、「どんなに美文字の練習をして技術を磨いても、丁寧に書く意識がなかったら下手になる」ということを学べました。
それからは仕事中に書くちょっとした字も、可能な限りゆっくり丁寧に書くようになりました。
すると、相対的に見て決して上手いわけではない自分の字に愛着を感じるようになったのです。
見ていて気持ちがよい。
下手な字を見つけても「次はもっとバランスを意識して書こう」と思うだけで、イライラしたりしません。
今では手書きで文章を書く行為そのものが好きになりました。
丁寧に描いた絵の「いい感じ」は、この時感じた愛着に近い。
この「いい感じ」の愛着を蓄積していければ、徐々に「自分の絵が好き」と思えるようになっていけるはずです。
ラフ画にイラつく理由
「丁寧に描く意識」を重視するようになってから、自身のラフ画に対してイライラしている自分に気づくようになりました。
それでわかったのは、ラフ画には「雑になりやすい」問題があるということです。
「ラフ=雑」という意味のとおり、丁寧に描くのは清書からで、ラフ画は丁寧でなくても構わないという意識に陥りやすい。
つまり「丁寧に描けばいい絵が描けるなんて当たり前」と分かりつつも、丁寧に描けていなかったわけです。
後から丁寧に修正するから問題ないように思えるかもしれません。
しかし「雑に絵を描く」という行為そのものが、絵を描く上でのデメリットを生み出してしまいます。
先程の、雑に書いた字を見るとイライラするし、自分の字が嫌いになるという話。
これは絵にも当てはまると思います。
ラフに雑に絵を描き続けていると、スピーディに色んな構図やアイディアを試し描きしていくことはできます。
絵をたくさん描いて、その分、上達のための経験値を蓄積できた気分にもなれるでしょう。
しかし清書に続く納得の行くラフ画はともかく、その手前で納得行かずに途中で描き捨ててきたボツラフ画に愛着など感じられません。
いくら描いても納得の行くラフ画を見出だせない日もある。
そんな日の終わりにアイディア出しの過程で描いた雑なラフ画に目をやると、クオリティの低さにイラついたり、己の才能のなさを実感してむなしくなったりしないでしょうか。
イラスト作成の根幹となる工程でそんなことが続けば、絵を描くことが好きになれるはずもありません。
ペン画は下書きなしの一発描きですけど、別途アイディア出しをするときや、作品とは関係ないラクガキでラフ画を描くことはあります。
そこを雑に描いていると「自分の絵を嫌いになる」というリスクが伴うのです。
さらに言えば、日本人は誰もが学生時代に10年以上ほぼ毎日字を書いていたのに、字が下手な人はずっと下手です。(僕ものその一人でした)
原因は、例外的な病気を除けば「丁寧に書く意識」を持たず雑に書き続けているからでしょう。
丁寧さがなければ小さな歪みや違和感はスルーされ続け、永遠に改善されませんから。
絵も同様だと考えれば、雑に描き続けることは「絵が上手くならない」リスクもあると言えます。
「絵はたくさん描いていれば誰だって上手くなる」なんて一般論が真実なら、日本の健康な大人は全員達筆でなければおかしい。
つまりどれだけ量をこなしても、雑に描いたものは経験値として蓄積しない。
「ラフ」画だからといって「雑」に描いていいわけではないのです。
ラクガキも上手い人がサラサラっと簡単に描きあげる姿に憧れて、「素早く雑に」描くスタイルに引っ張られやすい。
しかし「素早く簡単に描くこと」と「素早く雑に描くこと」はイコールではありません。
客観的な見た目は同じでも、後者は「自分の絵を嫌うリスク」、「上達できないリスク」を増やす描き方。
逆に迷い線の多いラフ画やラクガキであっても「丁寧に描く意識」が伴っていれば、それが作品でなくても愛着を抱けます。
目には見えないものですけど、「丁寧」の意識は紙やペンと同じレベルの、絵を描くための必須アイテムなのです。
丁寧の障害になる「焦り」
丁寧さを一時的に発揮することは誰でもできます。
しかしこのスキルを身につける上で最も難しいのは、丁寧に描く意識をキープし続けることです。
ゆっくり丁寧に描くことの効用を理解できていても、「焦り」の感情に飲まれてしまうと丁寧さをキープできません。
この「焦り」が生じる原因は、結果を優先した高すぎる目標設定や、タイトなスケジュール設定です。
つまり、己の実力を適切に考慮できていない「雑な計画」が原因ということです。
目標が高すぎたりスケジュールが短すぎれば、必然的に現在の自分が負担すべきノルマやプレッシャーは重くなる。
結果として余裕を失い、「焦り」に飲み込まれてしまうわけです。
そんなセルフデスマーチ状態を慢性化させてしまっている人は、自身の計画を見直す必要があります。
他でもない自分自身が、無理のあるブラックな要求を己に課しているわけですから。
そんな「雑な計画」を見直すことが焦りを鎮め、丁寧さをキープするために必要な事前準備です。
ちなみに、「昔からスケジュールを守るのが大の苦手」という方はいっそのこと「締切なし」にしてしまうことをオススメします。
その効用を詳しく知りたい方は過去記事【創作に締切は必要ない】をご覧ください。
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あとがき
今回ペン画ケアレスミス対策として「丁寧」を紹介しましたけど、一番言いたかったのは「丁寧に描くことで自分の絵を好きになっていける」ということです。
僕自身10年以上絵を描いてきて、自分の絵が嫌いなだけだったわけではありませんけど、ずっと認めることができずにいました。
それが丁寧に描く効用を知ったのがキッカケとなって自分の絵を認められるようになり、今では好きだと思えるようになりました。
クロッキーのように素早くサラサラと描くほうが気持ちいいという感覚もわかります。
でもそのサラサラスタイルで絵を描いてきたけど、自分の絵を好きになれないし上達感も得られないという方であれば、一度「ゆっくり丁寧」にギアチェンジしてみることをおすすめします。
注意点としては、「丁寧に描く意識」と「上手く描く意識」は別物だということ。
上手く描こうと思ったところで上手く描けるわけではありませんし、それはただのプレッシャーにしかなりません。
でも丁寧に描こうと思えば丁寧に描けますし、プレッシャーにもなりません。
「丁寧に描く意識」とは、技術的に見れば集中するとかマインドフルに取り組むということですけど、見方を変えれば絵や絵で描くものに対する敬意や愛情のようなものです。
正直、今でも気を抜くと「雑」になってしまうことがよくあります。
でも大事なのは「可能な限り丁寧であろう」と思えること。
他人や自分との関係性と同様、絵との関係性を良くしていくために、「丁寧に描く意識」をこれからも磨き続けていきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
▲字の書き方練習にはこの本を使いました。
文字の流れをつかむための「つづけ字」という書き方が非常にためになります。
有名な書道家、武田双雲さんのお母さんの本です。
「武田双葉」の「葉」の字のバランスがすごく格好いい!
手書きでしか書けない格好いいバランスが字にはあるのだということをこの「葉」の字から学びました。
次の記事では、ペン画で実際にミスしてしまったときの「リカバリー」について解説しています。
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