下描きなしでは背景を展開できる気がしない。
そんな悩みに対して【イラスト背景に風景は描けなくても模様は描ける】では、背景を「模様と風景」に分割して「模様」から攻略しようという提案をしました。
それでなんとか模様背景を描ける様になったなら、当然「風景」も描ける様になりたいと思うもの。
でもやっぱり描けない・・・
パースがなってないとかスケッチ不足とかそういう技術レベルの話ではなく、もっと根本的なところで躓いている気がする。
そんな人は一度、風景を「写真」ではなく「ジオラマ」的な視点で捉えてみてはいかがでしょうか。
プチジオラマ
風景背景(以後「背景」)を展開できない問題の解決策に「プチジオラマ」という方法を提案します。
プチジオラマとは見出しイラストに描いている様な、キャラクターの足もとにタイルブロック一枚分の地面を展開したものです。
フィギュアの台座をデコって小さなジオラマにした感じ。
これにより背景展開がしやすくなる理由は2つあります。
「空間制限」により難易度を下げられる
背景展開が難しい原因の一つは「範囲が広すぎる」ことです。
広ければ描くべきモノの数も種類も増えるのですから、当然描きあげる負担は大きくなり、相応の実力が求められます。
だから背景に苦手意識がある人は、キャラクターにクローズアップした構図にして背景を小さくする戦略を取りがちです。
でもよく考えてみれば、人物だって最初は「顔だけ」しかまともに描けなかったはず。そこから徐々に描ける範囲を広げてようやく「全身」を描ける様になったわけです。
背景だって同じこと。いきなり「全体」を描けるわけがないのです。だからまずは「全体」ではなく「部分」に絞った戦略を取るのは正しい。
しかし、キャラクターにクローズアップするなどの「フレームを小さくする方法」では描くべき量が減るだけで、明確に「部分」を絞れているわけではありません。
そこでフレームではなく「空間を小さくする方法」を採用したのがプチジオラマです。
これであれば背景を「近景だけ」に絞れます。
すると「遠景」がなくなるので遠近感を考えなくても良くなる。更にフレームも使わないので構図レイアウトも考慮不要になります。
これにより背景の難易度を大幅に下げることができるわけです。
「スモールステップ化」によりイメージ構築しやすくなる
背景展開が難しい原因の2つ目は、そもそも「イメージを膨らませられない」ことです。
最初から描きたいシーンが明確にイメージできている場合はともかく、なんとなくでキャラクターを描いてみた状況からだと背景が思い浮かばない。
どうしたらそこから背景イメージを膨らませられるのでしょうか?
そこで考えたのが「背景イメージを膨らませる工程」をスモールステップ化する方法。
これにより「写真撮影」のように最初から完成した背景イメージを探すのではなく、小分けの背景要素を組み合わせながら徐々にイメージを構築していく「ジオラマ作り」的なスタイルに変わります。
一気に「全体」をイメージするのは難しい。
でも「部分」に分けて順番にイメージして行くことによって、更に難易度を下げられるわけです。
背景のスモールステップ化
「背景イメージを膨らませる工程」をレベル1~12のステップに分けて考えてみます。
レベル1「キャラクターを配置」
描いてみればわかりますけど、キャラクター不在で背景のみのジオラマは全然面白くありません。なのでまずはキャラクターの全身を描いて配置できることがスタートラインです。
この時点で特に描きたいシーンが浮かんでいないのであれば、棒立ちでも問題ありません。
ちなみに過去記事【下書きなしで絵を描くためのイージーモード戦略】でも書いたとおり、背景に求められるクオリティはキャラクターのリアリティに比例するため、最初のうちはデフォルメキャラを描くのがオススメです。
レベル2「カゲを落とす」
キャラクターの足もとに影を落としました。これだけで宙に浮かんでいるようだったキャラクターの足もとに「地面」が生まれたことがわかります。
レベル3「地平線を引く」
キャラクターの背後に地平線を引きました。これにより「天」と「地」が可視化され、一気に「空間」の存在感が増したと思います。
この超シンプルな原初空間こそ、背景イメージの下地となる空間です。
背景作りは、「モノ・カゲ・地平線」による天地創造ステップから始まるのです。
レベル4「フィールドブロックを切り出す」
第1章で述べたとおり、このままだと背景の範囲が広すぎて展開力が追いつきません。
なのでキャラクターの足元周りの空間だけを切り出します。
このサイズであれば「背景展開できない」という苦手意識はかなり軽減されるはずです。
レベル5「フィールドを選択」
フィールドブロックを切り出せたら、次はブロックにテクスチャーを貼ってフィールド属性を付与しましょう。
「今このキャラクターはどこにいるのか?」を決めれば良いわけです。
ここでは「草原」のテクスチャーを貼ってみます。これで「キャラクターが草原に立っているシーン」のジオラマになりました。
レベル6「ガラクタを配置」
フィールドが定まったら、ガラクタを配置して空間を豊かにしていきましょう。
今回はベンチを配置してみました。するとフィールドが「公園」のような雰囲気に変わります。
代わりに岩を置けばもっと自然感が増すでしょうし、木を植えればフィールドが「草原▶森」に変化したりします。
また適当に身の回りにある文房具などの人工物を配置してみても、「謎のオブジェ」として意外とジオラマに馴染むので試してみてください。
レベル7「カベを配置」
ガラクタを配置するノリで壁も配置してみましょう。
2面囲えば屋内空間になりますし、厚みをつければ崖にもなります。
レベル8「天井を配置」
壁の上に天井を載せれば屋内感を強めたり、2階を作って縦方向に空間を拡張したりできます。
レベル9「マドを作る」
配置した壁に穴を開ければ「窓」になります。
キャラクターが通れるサイズの開口を作って板で塞げば「扉」です。
窓や扉を作るだけで空間が「向こう側」と「こちら側」の階層構造になり、同じ広さでも感覚的奥行きが生まれます。
レベル10「フィールドを拡張」
プチジオラマ作成に慣れてきたら徐々に空間範囲を広げてみましょう。
フィールドブロックのサイズを拡張していけば、「プチ」ではない大きなジオラマを作れます。
でも一度に大きく拡張しようとするとこれまでと同じ失敗をするだけなので、少しずつ拡張していくのがコツです。
レベル11「キャラクターを動かす」
レベル9~10くらいになってくると、キャラクターが棒立ちのままでいるのが不自然に思えてきます。
その違和感を感じてきたら、自然と思える場所へキャラクターを動かしてみましょう。
ゲームのアバターを操作するような感覚でキャラクターに感情移入するとイメージが膨らみやすくなります。
レベル12「写真撮影」
ここが通常のイラスト作成でやっていることです。
カメラの位置を調整してキャラクターと背景を見栄え良くフレームに収める。遠景を考慮する必要が出てくるのも大体ここから。
背景を考える上でイメージを膨らませられなかった根本的な原因は、ここがスタート地点なのだと信じて疑わなかったことだと考えます。
背景を写真ではなくジオラマで考える理由
きっと背景上級者はレベル1~11の工程を脳内で完結できるのでしょう。
しかし、背景初心者がそれを真似しようとするのは無理があります。
イメージできていないものをアウトプットすることなんてできないのですから。
仮に理想的な幻想風景が思い浮かんでいたとしても、各要素の配置も詳細もあいまいなイメージではやはりアウトプットはうまく行きません。
つまりペン画で背景展開できない原因は、自分のジオラマレベルを見誤っていることにあります。
脳内でレベル11ジオラマを構築する実力がないにもかかわらず、いきなりレベル12の写真撮影を強行しようとしている。
そんなの「メラ」も満足に使えないのに「メラゾーマ」を唱えようとしているようなものです。できないのが正しい。
でもレベル1~4くらいまでなら脳内だけで十分イメージできるのではないでしょうか。
もし試しにレベル5ジオラマを描いてみて一発描きできたなら、少なくとも自分のジオラマレベルが5以上であることがわかります。
同様の方法で高レベルのジオラマをペン画で描いてみることで自分のレベルを測定していけば、「一発描きで展開できる範囲」を把握できます。
背景上級者と背景初心者の差は、脳内で構築できるジオラマレベルの差でしかない。
そう考えれば、あとは自分のレベルに合わせてスタート地点を調整するだけで「背景展開できない」という状況は脱せます。
仮に「自分のジオラマレベル=5」と定義したとしましょう。
レベル5の状態でレベル6ジオラマを描いてみると、「先にフィールドを描き上げてしまうと、後からガラクタを配置できない」という事に気づくはず。
先行してガラクタを配置しておかないとフィールドの線に重なってしまうからです。
つまり脳内でガラクタ配置場所をイメージし、事前にフィールドとガラクタの「描き順」を調整できないとレベル6ジオラマを一発描きすることはできないわけです。
ただし、事前にガラクタなしのレベル5ジオラマを描いておけば話は変わります。
これを見ながら描くのであれば、あとは脳内でガラクタのイメージを重ねるだけで良いので、レベル5でもレベル6ジオラマを一発描きできます。
このようにプチジオラマで脳内イメージを補完しながらジオラマ作りを進めていけば、脳内だけで全部を構築できなくても「背景イメージを膨らませる」ことができるという仕組みです。
「写真撮影」的な視点のままでは、どうしても背景を「全体ひとまとめ」で捉えてしまいがち。
すると脳内イメージはずっと漠然としたままでまとまりません。
だから背景イメージをスモールステップで構築していく「ジオラマ作り」的な視点で、「部分ごと」に具体化していく必要があるわけです。
またレベル12の「写真撮影」まで頑張って展開せずとも、途中のプチジオラマだけで十分なクオリティのイラストとして成立します。
なのでプチジオラマだけで完成としてしまっても良いのです。
まずは「写真撮影」を目指さず、その手前の「ジオラマ作り」だけで良しと考えてみれば、背景付きのイラストも少し気楽に取り組めるかもしれません。
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あとがき
僕自身まだまだ背景を描くのは苦手ですけど、とりあえずプチジオラマというアプローチで「メラ」級の背景展開は可能になりました。
ここから徐々に「一発描きで展開できる範囲」を広げて、いつか「メラゾーマ」級の背景展開力を発揮できるようになりたいものです。
『でもイメージ膨らますためにわざわざ描き直さなきゃいけないなら、最初から下描きありで描いた方が良くない?』
ここまで読んでみてこんな疑問を抱いた人もいるのではないでしょうか。
その回答と、プチジオラマのもう少し具体的な描き方を「後編」で解説したいと思います。
まずは前編を最後まで読んでいただきありがとうございました。引き続き後編も読んでいただけると嬉しいです。
▲「背景をジオラマとして考える」という視点を与えてくれた本です。
この本で紹介している方法を更に簡単にしたのがプチジオラマなので、ジオラマ作りの参考書として最適です。
次の記事では、プチジオラマの具体的な描き方を解説しています。
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