どんなに失敗しないように様々な安全対策を用意し、全集中して取り組んだとしても人間は必ず失敗する。
それは天才も凡人も同じです。
ならば、100%起こると分かっているペン画の失敗に対して必要なのは「才能」ではありません。
失敗した時のダメージを最小化する「セーフティネット」です。
今回はペン画ケアレスミス対策の最期の3つ目、失敗しても大丈夫と思えるようになる方法「リカバリー」について紹介します。
リカバリーとは
先に紹介しているケアレスミス対策「描き順」、「丁寧」はミスを減らすための対策でした。
今回の「リカバリー」は、それでも失敗してしまった時の対応策になります。
一度描いた線を消せないペン画の修正方法と捉えることもできるでしょう。
もちろん修正液は使いません。
線を消さなくても、「失敗」を「失敗ではないもの」に変換できればゲームオーバーは回避できます。
ネガティブに言えば「失敗をごまかす」ことであり、ポジティブに言えば「失敗を活かす」ことです。
それがどういうことか、具体例をあげながら説明していきましょう。
リカバリースキル
僕がペン画を描く際に使っているリカバリースキルは次のとおり。
順番に解説していきます。
太線化:太線にしてごまかす
少し線の位置がずれてしまったり、歪んでしまった時に太線にしてごまかす方法です。
多分、リカバリースキルの中で一番よく使うものだと思います。
特に頭の外周ラインや、アゴのフェイスラインなどでよく使います。
線の張りが弱すぎて想定より縮んでしまった時は外側、強すぎて膨らんでしまった時は内側に向かって線を太くします。
すると人間の脳は都合よく、内側と外側でバランスの良い方をアウトラインとして認識してくれます。
迷い線の多いラフ画段階の方が、ムダな線を消したペン入れ後よりいい感じに見えてしまうのと同じ原理です。
一部だけ太線になるとバランスが悪い場合は、アウトライン全体を太線で囲ってしまいましょう。
そうすれば、始めからメリハリをつけるためにアウトラインを太くしたように見えます。
もちろん歪みが大きくなるとごまかしきれなくなるので、その時は別の方法でリカバリーしましよう。
順番シフト:前後関係の変更
これは過去記事【知るだけで差がつくペン画イラストの書き順】の中で書いた、書き順ミスへの対応策です。
「胴体の手前に手が位置するポーズ」を描こうとしていたのに先に胴体を描いてしまった場合、手前に手を描くことができなくなります。
この場合は「胴体の外側に手が位置するポーズ」へ計画変更することだけが失敗を回避する方法です。
「描いたもの(過程)」に合わせて「計画(結果)」を修正する。
それが「失敗」を「失敗ではないもの」に変換する方法になります。
頭身シフト:予定頭身の変更
手足の長さが想定よりも長すぎたり、短すぎに描いてしまった時の対応策です。
そのまま想定していた頭身で描き進めてしまうと、確実に頭身のバランスが悪くなる。
なので、すでに描いた手足の長さに合う頭身へと計画変更することで失敗を回避します。
塗りつぶし:塗りつぶして隠す
言葉どおり部分的にベタ塗りやハッチングをかけて、失敗線を見えなくしてしまう方法です。
見えなくなれば失敗はなかったのと同じですよね!
黒っぽい衣装や、影になる部分などで使えます。
模様パッチ:模様で隠す
ベタ塗りやハッチングではなく、柄やエンブレムなどの装飾によって失敗線を隠す方法です。
広範囲の柄としてもワンポイントとしても使えます。
失敗したことでなんかオシャレさが増したなら結果オーライでしょう!
別パーツ化:失敗線を別パーツに変換
これはリカバリーの中で最も重要かつ汎用性が高いスキルです。
極めれば本当に失敗が怖くなくなると思います。
間違った線を引いてしまった時は、まず深呼吸して落ち着きましょう。
ヤケになったら余計ぐちゃぐちゃになるだけです。
そして全体を俯瞰してみて、失敗線を元々描こうとしていたパーツの線ではなく、まだ描かれていない別パーツの線として活用できないかを考えるのです。
アゴのフェイスラインでミスした時は「首周りの線だから、マフラーとかネックレスの線かな」と考えたり、頭の外周ラインでミスした時は「アホ毛とか被り物の線かもしれない」と考える。
ちょっと難しそうに思えますけど、線の周囲から情報を集めて「そこにある何か」の正体を推理するように考えていけば、上手く想像力を働かせることができると思います。
「別パーツ化」に成功すると、「失敗しても大丈夫なんだ」ということが実感できて嬉しくなります。
悪例作り:悪い例として完成させる
ペン画を描き続けていれば、ここまで紹介してきたスキルすべてを使ってもリカバリーしきれないミスをしてしまうこともあるでしょう。
これはそんな時用の最終手段です。
残念ながらリカバリーできないのであれば、失敗を確定させて「描き直し」を選択する他ありません。
しかし、失敗を失敗のまま終わらせずに「悪い例」として有効活用することはできます。
やり方はシンプルです。
描き直しをすることは前提としつつも、その失敗した絵を最後まで描ききるだけ。
ミスした部分は可能な限りごまかし、ごまかしきれない部分はそのままにして、とりあえず最初イメージしていたものを出力しきってみる。
すると脳内にあったイメージが視覚化されるので、完成形の印象を確認できますし、もっとこうしたいという改善点も見えてきます。
もし失敗したところで投げ出していたら、その先の展開は曖昧なまま。
もし描き慣れていないモチーフが控えていたりしたら、同じ失敗を回避できてもそこでまた失敗するかもしれません。
失敗対策としても単純に「次はミスしないように気をつける!」程度のことしか意識できないので、同じ失敗を繰り返す可能性も高いです。
何より追加手間でしかない描き直しに面倒臭さを感じてしまって、最初よりもクオリティが下がりやすい。
でも「悪い例」を作っておけば一度失敗している部分はひと目で分かるので、同じ失敗をしないよう注意すべきことを具体的に認識できます。
また描き直す前に苦手なモチーフを資料で確認したり、軽く練習しておくこともできます。
この一手間によって描き直し後の方がクオリティが上がるでしょうし、あえて遠回りする道を選んだ方が、不思議と描き直しを面倒臭いと感じにくくなるものです。
それに描き直し前提なので緊張せずに描けたり、描き直し前に色々とアイディアを試せるので意外といい感じのクオリティになったりします。
そのためとりあえず描ききってみると、失敗のダメージが大したことないように思えてきて「このままで良いかも」と思い直すことも少なくありません。
それでも「やっぱり描き直したい」と思うときだけ描き直せばOKです。
そうなったとしても「悪い例」は失敗した部分だけでなく、いい感じに描けた部分も参考として有効活用できるわけです。
この最終手段を活用することで、リカバリーできないレベルの失敗をしても「とりあえず有効活用はできるのでムダにはならない」と思えるようになります。
すると失敗しても焦りにくくなり、落ちついてリカバリー可能かどうかを考える余裕が生まれます。
「描ききるクセ」もつくので、細部にこだわりすぎてスランプに陥ることも減るでしょう。
リカバリーフロー
次はリカバリースキルの実用フローを紹介します。
①一旦深呼吸して落ちつく
ミスした時に一番最初にすべきことは「落ちつく」ことです。
焦って対応しようとすると雑になりやすいからです。
するとミスが連鎖してどうしようもなくなってしまいます。
リカバリーを起動するには「丁寧に描く意識」が必須。
なのでまずは一回深呼吸して冷静になりましょう。
そして絵全体を俯瞰してみます。
どうリカバリーするかは、そこからゆっくり考えていけば良いのです。
②簡易対応(太線化/順番シフト/頭身シフト/塗りつぶし/模様パッチ)
簡単にリカバリーできるならそれに越したことはありません。
まずは特定のミス専用のスキルでリカバリーできないかを検討してみましょう。
③個別対応(別パーツ化)
簡易対応でリカバリーできない時は、汎用性の高い「別パーツ化」で対応します。
失敗線の周囲から情報を集め、謎の線の正体を推理するように想像力を働かせていきましょう。
④最終手段(悪例作り)
「別パーツ化」でリカバリーできない時は、残念ながら失敗を確定させる他ありません。
でもそこでヤケにならず冷静さを保って「悪例作り」にシフトできれば、そこまで描いた絵をムダにせず、有効活用することができるでしょう。
まとめ
ここまで紹介してきたリカバリースキルの中には、おそらくあなたも意識せずに実践しているものもあったと思います。
リカバリーはそのなんとなくの行為を言語化し、いつでも再現できるよう実用化したものです。
そうすることで「失敗しても大丈夫」と思える根拠を持つことができます。
実際にペン画の失敗を乗り越える経験を積み重ねていけば、もっと多くのリカバリースキルを会得することができるでしょう。
リカバリースキルのレベルが上った分だけ、ペン画の自由度も向上していくことと思います。
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あとがき
よくある言い回しではありますけど、ペン画を描いていると、人生とペン画は似ていると思うことがあります。
どちらも失敗したら修正できません。起きてしまったことをなかったことにはできないのです。
でもペン画は失敗をなかったことにできなくても、リカバリーすることができる。
そんなリカバリーの技術を磨いていけば、人生の中で生じる失敗に対してももっと寛容になれるんじゃないかと思ったりもします。
「何やってんだ!」と、クソ上司のように失敗を非難するだけでは余計に失敗が怖くなるだけ。
それじゃペン画も描けなくなります。
ミスした時に必要なのは「まだあわてるような事態じゃない」と、冷静にフォローできるマインドです。
そして実際にリカバリーを成功させる経験を積み重ねていけば、また失敗しても「自分にならどうにかできる」と信じられるようになっていくでしょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
▲この本で「別パーツ化」の考え方を学んだことが「リカバリー」の発想につながりました。
一気に読まなくても、時々パラパラめくって気になったところを読み返しているだけでいい感じに学びが得られる本です。
次の記事では、「アタリなしで人物を描く方法」を解説しています。
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