前回の記事で「描きたいけど描けない悩み」の最初の難題である白紙恐怖症を乗り越え、とりあえず絵を描き始めることはできるようになりました。
しかし次はこんな問題が立ちふさがってくるのではないでしょうか?
こういった苦手意識がノイズのように脳内に溢れかえり、集中力やモチベーションがゴリゴリ削らていく。
今回この苦手意識のノイズを解消するためのスキル、「チューニング」を紹介します。
チューニングとは
ギターの音程を調律したり、ラジオのチャンネルに周波数を合わせることを「チューニング」と言います。
苦い定式とは、理想と実力のギャップによって生じるノイズのようなものだと考えられます。
絵を描く際、「描きたい絵」の理想が高すぎると実力が追いつかず、脳に負担がかかってストレスになる。すると脳はストレスを回避するために、絵を描く行為にブレーキをかけます。
そのブレーキが苦手意識という自己否定のノイズです。他者に否定された記憶や自己卑下の感情を呼び起こし、絵を描くのをやめさせようとする。
ブレーキを踏みながらアクセルを踏み続けることもできますけど、処理能力の限界を迎えると処理落ちしてフリーズ。前回の記事で話した「白紙恐怖症」に陥り、何も描くものが思い浮かばなくなるわけです。
このノイズが生じないように理想(描きたいもの)と実力のバランスを調整するスキルを「チューニング」と呼ぶことにします。
個人的に、これは絵の苦手意識を克服する上で最も重要なスキルだと考えます。
カラオケでも自分の声の高さに合わないキー設定だと歌うのが苦しいでしょう。高音にこだわらずに自分にあった高さに調整して歌うほうが、間違いなく気持ちよく歌えるはずです。
絵もそれと同じです。チューニングが上手くできないまま描くのは苦しいですが、ちゃんとチューニングしてから描けば心地よく描けるようになります。
基本的に絵の描き方スキルは、模写、デッサン、スケッチ、クロッキー、資料・参考書学習といった観察力を磨いて視覚情報を集める「インプット」と、作品作りによって表現力を磨く「アウトプット」しか語られません。
「アイディアが出ないならインプットを、表現力が不足しているならアウトプットに注力すればいい。両者のバランスが悪いなら低いほうを伸ばせばいい」
確かにそのとおりではありますが、苦手意識をこじらせてしまった人は、その方法論ではバランスを取り戻せません。
なぜなら問題は「己に対する要求ハードル」が高くなりすぎていることだからです。表現力が不足しているのは間違いないのでしょうけれど、それが努力でどうこうなるレベルではない。
良く言えば向上心が高いということなのですが、その向上心のコントロールを失っています。努力して実力を向上させても、無意識にハードルも同時上昇させてしまう。
完全に「アキレスと亀」状態。それがわかっていてもハードルを下げる方法がわからないのです。
ずっとそんな感じだった僕も今はある程度ハードルをコントロールできるようになりました。
あくまで個人的な一例に過ぎませんけど、「チューニング」のサンプルとしてやり方を紹介します。
チューニング・ダイヤル
前回の記事の中で書いた、目標を「他人に認められる絵」から「人前で描ける絵」にハードルダウンするのは目標のチューニングです。
これだけでも負担は大きく軽減されるはずですけど、チューニング要素は1つではありません。
イメージとして、たくさんのダイヤルが付いた無線機のような機械を想像してください。
各ダイヤルを左右に回して、最もノイズが少なくクリアな音がでる設定を探していきます。
ダイヤルの種類も設定も、考えていけば無数にあるでしょうし、人それぞれで適切な組み合わせも異なります。
次の一覧は、僕が認識している主なダイヤルと設定です。
【目標】他人に認められる絵▶自分に認められる絵(人前で描ける絵)
詳細は前回の記事で書いたとおり。
とにかくたくさん描かなければ達成できない漠然とした巨大目標を、すべきことが最低限で明確な目標に変更することで「己に対する要求ハードル」を下げられます。
【姿勢】有言実行▶不言実行
昔は僕も「有言実行」を採用してましたけど、このスタイルだとチューニングが下手になります。
全て目標どおり実現し続けられるのであれば何の問題もないですけど、努力で超えられない壁にぶつかった時に行き詰まります。
他人に見栄を切ってしまっている手前、プライドが目標を下げる選択を許してくれないからです。
チューニングを行って目標を下げるためには、一度敗北を認めて他人から幻滅される可能性を受け入れるしかありません。
そして次からは無闇に他人に目標を語るのは控えましょう。約束も100%できると思えることしか原則しないようにすることです。
人それぞれではありますけど「不言実行」のほうが自己都合だけでチューニングしやすく、柔軟で生きやすいと思います。人生は予定通りに行かないものですから。
【舞台】PS4▶ファミコン
これは、自身のスペックに合わせて絵を描くステージを選択するということです。スペック比較のイメージとしてゲーム機器を採用しています。
絵を描く上で人気マンガの格好良くて可愛いキャラクター、最新ゲームの美しい映像やグラフィックに憧れるのは当然でしょう。
しかし自身のスペックがファミコン並なのに、PS4並のイラストを描こうとしていては処理落ちするのも当たり前です。
【出力】デジタル、カラー▶アナログ、モノクロ
デジタルでの仕上げ、着色の工程をなしにすると1枚のイラストの負担はかなり軽くなります。
完全に好みの話ですけど、一度とことん負担を軽くしてみると自分のバランスを掴みやすくなると思います。
【画質】リアル志向▶デフォルメ志向
一般的なマンガに描かれる5~7頭身キャラをメインで描いていこうとすることを「リアル志向」と呼ぶとします。
「リアル志向」でキャラを描くと、周囲の背景や小物に至る全てに相応のリアルさを求めてしまうことになり、情報量が一気に増えます。
その情報量に処理能力が追いつけないと人物を描くだけで力尽き、その先への発展性がなくなります。それだけでなく、人物の動きも重くぎこちなくなってしまうでしょう。
それに対して1~4頭身のデフォルメキャラをメインで描いていこうとすることを「デフォルメ志向」と呼ぶとします。
「リアル志向」に比べて圧倒的に情報量が軽くなるため人物以外の背景や小物、動きを表現する余力が出てきます。
そんなに観察力や正しさを求められないのも良いですね。
【頭身】5~7頭身▶1~4頭身
基本は「画質」で述べたとおり。
ここからさらに1~4頭身の中から描きやすくてしっくり来る頭身を選び、自分の標準モデルとしましょう。その頭身が起点となってデフォルメの調整がしやすくなります。
ちなみに僕は4頭身を標準にしています。
【構図】3D▶2D
アオリ、フカン、パースを一度封印します。
無駄に難しい奇抜な構図を求めるのを一旦やめて、平面的なフラット構図を極めましょう。
頭身同様、起点となる構図があったほうが別構図を描く時に調整しやすくなります。
【背景】世界観、風景▶模様、雑貨小物、無
イラストに背景が必須なんてことはありません。
ちょっとした模様や小物が添えてあるだけでも十分オシャレな雰囲気を醸し出せます。
いっそのこと背景なしとしてみたほうが、キャラクター表現に集中できるでしょう。
ファミコンの舞台で絵を描く
複数の「チューニング・ダイヤル」によって絵の負担を減らす目的は、絵の情報量を減らすことです。
「背景禁止、アオリ・フカン禁止、頭身制限」など、表現する上での制限を設けることで必然的に出力可能な絵の情報量は小さくなります。
そうすればデータとして軽くなるため、ファミコン並の処理能力でもフリーズせずに動かせるようになるのです。
ファミコン時代のゲームソフトは最大でも1MB程度の容量しかなかったそうです。スマホの写真1枚程度の容量。
それでも一つ一つのデータを軽くする工夫をして、ドラゴンクエストやスーパーマリオのような面白いゲームを生み出せていたわけです。
大量のインプット、模写やスケッチによる観察力磨き、アウトプット量を増やして処理能力を上げる。
それらは「上達する」ためには必須であっても、「絵を描く」ために必須なわけではありません。
絵を描く目的が人に認められたり、お金を稼ぐためではなく、純粋に楽しみたいというものであれば、まずはファミコンで遊ぶところから始めるのが良いと思います。
PS4やニンテンドースイッチではなく、あえてできることを制限したファミコンレベルの枠組みの中で絵を描いてみる。
ファミコンの舞台は制限も多いですけど、その分迷いが減って扱うデータが軽くなるので意外と自由度も表現の幅も広がります。
無理して重い高画質・ハイクオリティなイラストを描こうとしていた時より、ずっと気持ちよく絵を描けるはずです。
そうやってファミコンの舞台で遊んでいるうちに、いつも絵を描く時に頭の中に響いていた苦手意識のノイズが聞こえなくなっていくと思います。
「人前で描けるものを増やすための準備」をする時は、まずチューニングから始めましょう。
苦手意識のノイズが聞こえない状態で描けたもの。それがあなたの得意な絵になります。
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あとがき
しばらく忙しくて絵を描けてなかったり、体調不良やストレスで処理能力が下がって以前描けていたレベルの絵が描けなくなるなんてのは普通のことです。
また他者から否定されたり、絵が上手い人のハイクオリティイラストを見ることで無意識にハードルが上がってしまうこともよくあります。
そんな時は随時チューニングをして「己に対する要求ハードル」を下げましょう。
「それなら描ける」と思えるようになり、苦手意識を蓄積する心配はなくなります。
リハビリと思って「描けるもの」を描いていれば、自然と描くスキルも回復していくでしょう。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
▲画質がラフでも面白いものは面白い!
それを実感するためにファミコンソフトで遊んで見るのもチューニングにつながりますよ。
次の記事では「チューニング」の補足情報を解説しています。
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