文字には決まった書き順があります。
おかげで文字を書く際に、次に引く線をどれにしようか迷ったりせずに済みますね。
書きやすい一定の流れに沿って文字を構築していくので、形やバランスも安定します。
仮に書き順が決まっておらず、各自好きな場所から好きな順番で文字を書いて良いとなるとどうなるでしょう?
迷いが増え、バランスも変化するため、文字の正しい形がわからなくなってゲシュタルト崩壊を起こしてしまいます。
絵においても同じような「書き順」が決まっていれば、バランスを安定させ、迷いやミスを減らすことができます。
ペン画のケアレスミス対策
どんなに集中しどんなに注意していても、人はミスをしてしまうものです。
「下描きなし」のペン画で絵を描く場合も同様。どうやったってミスは起こります。
だから僕たちにできることは最初からミスが起こってしまう前提で計画を立て、ミスが起こりにくい仕組みを用意しておくこと。
そして実際にミスが起こってしまった時にケアする方法をあらかじめ準備しておくことです。
そうすることで失敗への恐怖を軽減し、「下描きなし」のスリルに足を踏み入れることが可能になるのです。
前回の記事では、根本的な「計画により生じるミス」への対策を書きました。
今回は実際にペン画を描いている途中で気をつけてさえいれば防げる「ケアレスミス」対策として「書き順、丁寧、リカバリー」のうち、「書き順」を紹介します。
これは僕がペン画を始めるきっかけとなった松村上久郎さんの本の中で、個人的に最も役に立ったテクニックです。
(松村上久郎さんについての詳細は【絵を描くのを楽しめなかった僕が下書きをやめて救われた話】で紹介しています。)
ペン画の書き順
結論から言うとペン画における「書き順」のルールは、「できるだけ手前のものから描いていく」ことです。
なぜなら修正可能な下描きとは異なり、ペン画では先に描いたモノの手前に、あとからモノを配置することができないからです。
これはペン画を描いていれば嫌でも思い知る原則です。
例えばキャラクターを描いていて、腕が胴体の手前に来るポーズにしたいと思っても、既に胴体を描いたあとでは線が重なってしまうので描けません。
これを回避するための方法が「できるだけ手前から描いていく」というルールを常に意識して描くことです。
腕が胴体の手前に来るポーズを描きたいのであれば、胴体より腕が先という「書き順」になるわけです。
ペン画には「手前から奥へ」という流れが存在することを知っているだけで、圧倒的にミスを減らすことができます。
僕もこの原則を知らずにペン画に挑戦した時は、何となく奥にあるものから描き始めてしまったりして、すごく描きにくいのが嫌になり鉛筆画に戻ってしまいました。
知らないと目に見えない川の流れに逆らって進むようなものなので、負担ばかりが増えて苦手意識を強めてしまうのです。
書き順ミスへの対応
書き順を間違えてしまった場合の対応は次の二択です。
当然のことながら、ペン画は修正できません。
なのでミスをした時点でゲームオーバー。また最初から描き直すしかありません。
しかし「計画」を修正するという選択肢もあります。
「計画」とは「描こうとしている絵」のことです。
描き始める前に思い描いていたり、描いている途中でイメージがまとまってくることもあるでしょう。
そのイメージを「描きたい」と思って描き進めていくことになるので、ペン画ではない下描きであれば、「計画」にあわせて描いたものを修正する。それが当たり前です。
でもペン画では「計画」しか修正できるものがありません。
ここで「計画」を変更し先に描いたものが手前に来るポーズに進路を変えることができれば、「書き順ミス」はなかったことになり、ゲームオーバーを回避して先へ進むことができます。
逆に「計画」に固執し、進路変更ができないとミスは確定。ゲームオーバーです。
日常生活では「結果>過程」という序列で「結果」を優先し、「過程」を調整するケースの方が多いでしょう。
しかしペン画では「結果<過程」で考えないと描き進めるのが難しくなります。
「既に描いたもの(過程)」は修正できないのだから、修正が可能な「計画(結果)」を調整して合わせていくしかありません。
なので「過程」を修正しながら描き進めるのではなく、「結果」を修正しながら描き進めていくことになります。
予定通りに進めない不安定さはあるにしても、ただ予定通りのイメージを目指し続けるより、予想外のイメージにたどり着けるほうが「お絵かき」としては面白いのではないかと思います。
その他の書き順設定
もちろん全く予定通りにならないトラブル続きでは面白くありません。
でもそこは「できるだけ手前のものから描いていく」という大原則を覚えておけば大丈夫です。
これを守っていれば計画の破綻が減って安定感が増します。
そこを踏まえた上でキャラクターやモノを描く順番を定めていくと、文字に近い感覚でモチーフを描き慣れることができ、描く負担が大幅に軽くなります。
例えば一般的なキャラクターのパーツの書き順としては、このどちらかになるのではないかと思います。
更に、頭の「書き順」を考えていくこともできます。僕の場合は次のような順番にしています。
これらの「書き順」を基準にして、変わったポーズや頭(側面)、頭(背面)の時には、手前に出てくるパーツを意識して順番を調整していく感じです。
厳密には「頭(正面)」では目より前髪などのほうが手前に出てくるのですけど、「できるだけ手前から」というルールなので、そこは描きやすさ重視で決めています。
目から描いたほうがキャラクターの向きを決めることができて、その後の方針を定めやすくなるので。
あとは、毎回スタート地点が同じほうが描きやすいというのもあります。
基準となる「書き順」を意識しながら描いていると迷いが減ってスムーズになるだけでなく、気付きが流れの中の工程と結びついて記憶されやすくなります。
ハンコ絵的になって応用しづらくなるんじゃないかと思われるかもしれませんが、基準が明確になることで意外と応用や変化への対応はしやすくなります。
他にも「木」や「花」、「本」や「ペット」など、よく描くモチーフの「書き順」なども定めていくことができれば、「難しい漢字を書く」ような気持ちの延長線上でモノを描けるようになっていきます。
「人」を複数登場させたい場合や「本」など同じ形のモノを大量に描きたい場合なんかには、「書き順設定」は非常に有効なテクニックです。
基準となる基本形を持っておくと、それこそハンコの様に手軽に描けるので、「何か描いて」と無茶振りされた時にも心強いですよ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
▲この本の中で「できるだけ手前のものから描いていく」という書き順の考え方が解説されています。
次の記事では、残るケアレスミス対策「丁寧」について解説しています。
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