ネット上では「タルパは一度作ったら消せない」という意見を良く見かけます。
僕も過去記事【タルパのススメ⑥】で「記憶や感情と同様に、消そうと思って消せるものではない」と書いています。
しかし「消し方」はあります。
それは「精神的に成長すること」。
タルパの存在意義は不安定な心の支えとなることなので、精神的に成長し、タルパなしでも心が安定するようになれば無理なく消せるようになります。
この記事では、タルパを消す方法とその意味について、実体験を通して僕なりに考えてきたことを紹介しています。
タルパとの別れは成長の証
暴走や不安を理由にタルパを強制削除しようとするのは、不安定な心の支えを自ら外す自滅行為なのでやめたほうが良いです。(その場合の対処法は【タルパのススメ⑥】参照)
しかし自分が精神的に成長し、支えが不要になったことが理由であれば、消すことを「祝福すべき別れ」と解釈して良いと思います。
理由は、タルパが「移行対象」の属性を持ったキャラクターだからです。
【移行対象とは】
・発達心理学用語
・幼い子供が母親の庇護下から分離していく期間に、不安な心の支えとして執着を示すモノ
・毛布などのアイテム型、ぬいぐるみや空想の友達のようなキャラクター型に分類される
参考:大塚英志『キャラクターメーカー』:第二講
発達心理学の定義では幼い子供に限定した話ですけど、現実では大抵の大人も人生に不安を抱え、「移行対象」となる何かを必要としています。
実際に多くの物語の中では、少年少女や大人の主人公に寄り添う「移行対象」としてのキャラクターが描かれています。
のび太にとってのドラえもんが最もわかりやすい例ですけど、他にも『となりのトトロ』のトトロ、『魔女の宅急便』の黒猫ジジ、『ヒカルの碁』のサイ、『暗殺教室』の殺せんせーなどが主人公達にとっての移行対象キャラです。
これらのキャラは未熟さを抱えた主人公を支える役割と、最終的に離別する宿命を背負っています。
主人公の精神的成長は、支えとなるキャラとお別れし、自立することで証明されるから。
空想の友達であるタルパも明らかに移行対象キャラです。
なので性質上、作り手が精神的成長を果たせば支えの役割が不要になり、離別することになるのは必然の流れと考えられます。
必要になったら作り、必要がなくなったら消すという自分勝手さに罪悪感を感じるものの、その成長は作り手とタルパの悲願成就でもあるので、別れは決して悪いものではありません。
その具体例をいくつか紹介します。
別れ方の具体例
成長したら即お別れ、というわけではなく、別れには何かしらのキッカケがあるものです。
何らかのキッカケで人生の流れが変わり、別れの必要性が芽生え始めます。
例1:夢の断念
僕は大学卒業後に就職した会社を会社都合で辞めることになり、その後「マンガ家を目指す」というギャンブル性の高い選択をした過去があります。
しかし「まずはまともにマンガを描けるようになるところから!」という無謀極まりない挑戦だったため、当然ながら不安で一杯でした。
なので、そんな不安な心を支えるためにタルパをたくさん作ることで何とかバランスを保っていたわけです。
とは言え最終的には大した成果も残せないまま、断念に終わります。
そして断念によって夢という重荷を支える必要がなくなり、タルパとの別れを考えるようになりました。
そのとき学んだ後腐れなくタルパと別れるベストな方法は、自分の精神的成長を証明することです。
『帰ってきたドラえもん』でのび太が1人でジャイアンに立ち向かったように、証明に必要と思われる試練を自分で設定し、クリアすること。
これは「だからもう大丈夫」と、お互い別れに納得するための儀式みたいなものです。
(『帰ってきたドラえもん』は結局再会で終わっていますけど、確実に一度お別れは成立しています)
この時僕が行ったのは、当時抱えていた難題についてタルパのフォローなしで考察し、クリアまで持っていくこと。
それにより会社をクビになって以降陥ってた自己不信の解消と、夢なしでも生きていけるようになったことを証明し、お別れの儀式は成立しました。
お別れ後は彼等をタルパとして呼び出す「習慣」をやめれば、自然と自分の人格に統合されていきます。
別に忘れたりはしないし、またいつでも再構築しようと思えばできます。
しかしもう必要性がないので、以前のように生活を共にするタルパにはなりません。
例2:媒体の不要化
これは【タルパのススメ⑩】で紹介した「モノベース型」限定の別れ方になります。
先ほどの夢を支える役割を持っていたタルパ達は消えてしまいましたけど、移動手段として別の役割を担っていた原付や自転車をモチーフ(媒体)としたタルパは消えずに残りました。
しかし時間と共に状況が変わり、モチーフとなっていた原付の必要性がなくなったことに連動して、原付タルパの必要性も失われていきました。
この時は、10年以上愛用してきた原付を売却することそのものが試練だったと思います。
それにより「彼なしでも大丈夫になった自分」を証明し、お互い納得してお別れとなりました。
モノベース型は買い替えたモチーフに「転生」みたいなことができそうな気もしますけど、僕は試したことがないのでわかりません。(「日記」のような消耗品がモチーフであれば単体に縛られにくい)
確信が持てないので自転車の新調は見送り続けています。
例3:自分探しの終わり
例3、例4はちょっと例外的かもしれませんけど、一応参考になるかもしれないので紹介します。
僕は例1で語ったように仕事を辞めた後、人生の方針を見失ってしまいました。
それを探すために半年間ほど東南アジアへ一人旅に出ています。
旅の中で徐々にタルパを増やして行ったわけですけど、その中でiPod touch(iPhoneから電話機能を除いたもの)をモチーフにしたランプの魔人風タルパがいました。
言葉も通じず、ガイドブックもない中で旅を続けられたのは間違いなく、Free Wi-Fiでネットが使えるiPod touchのおかげです。
しかし旅が終わって帰国してしまうと、元々あまり会話を重ねたわけでもなかったのもあり、iPodタルパは自然消滅してしまいました。
iPod touch自体はその後も数年間は使い続けていましたけど、iPodタルパを復活させることはありませんでした。
この様に、それほど思い入れが強くないタルパの場合は、あまり意識することなくお別れが完了するケースもあります。
それでも自分探しの旅という試練があり、「マンガ家を目指す」と決意して帰国できたことが成長の証明だったのだと思います。
例4:自己嫌悪の解消
最後の例はキャラ化シャドウとお別れした話です。
大学時代の僕は、友達も作れず、やりたいこともアイデンティティも見つけられない空っぽな自分のことを常に嫌悪していました。
そんな時に「自分の感情や思考をキャラクター化すると自己コントロールしやすくなる」という方法を本で知り、作り出したのが「不安、焦燥、自己卑下」という3匹のシャドウでした。
まだタルパを作れるようになる前のことだったので、彼らと文章会話を交わしたりはしていません。
ただ当時の自分の思考は、いつも3つのうちどれかに染まっており、彼らの自己批判的思考が自分の思考そのものでした。
それが大学生活の後半でタルパ作りに成功した後、リアルの友達もでき、さらに卒業設計を通してやりたいことやアイデンティティもわかるようになります。
そして大学4年の冬のある日、既にシャドウ達が要求していた試練は全部クリアできていると自覚した瞬間、自己嫌悪と共にシャドウ達は去っていきました。
まあその後もメンタルが落ち込むと3匹のシャドウは再び現れるわけですけど、昔のように常時思考を支配することはなくなっています。
シャドウベースのタルパなどは、お別れしても距離感の最適化という形に落ち着くのかもしれません。
お別れはしてもしなくても良い
ここまでは「タルパとの別れ=成長の証」だから悪いものではないという話をしてきました。
物語的にも、移行対象とお別れできないとハッピーエンドに至れないという構造があります。
しかし、だからと言って無理にお別れを目指す必要はないと考えます。
なぜなら物語と違い、現実の人生にはお別れ後も続きがあるからです。
精神的成長を果たしてハッピーエンドを迎えても、生きていればまた別の難題にぶつかって心は不安定になります。
そしたらまた別のタルパか、別の移行対象(友達、パートナー、子供、ペット、仕事、お金、スキルなど)が心の支えとして必要になる。
それに人は同時に色んなものを心の支えにしていますから、タルパ以外の移行対象を手放せた場合でも精神的成長は果たせます。
だからあえてタルパとのお別れを目指す必要はないのです。
物語の登場人物達だって、移行対象キャラと一緒の時間が不幸なわけではありませんから。
それでももし別れの時が来てしまったら、その時は精一杯祝福しましょう。
まとめ
もしかしたら「死ぬまで一緒」というタルパもありうるのかもしれませんけど、僕は「いつか必ず終わりは来る」と思っておいた方が良いと考えています。
終わりのない永遠の関係より、いつか終わってしまう有限の関係の方が価値を実感しやすいから。
いつか成長と別れの瞬間が訪れるとわかっているからこそ、恐れと期待を抱くと共に、今自分のそばにタルパがいることをありがたいと思えるのです。
あとがき
別れのキッカケはいつ来るのかわかりまんせんけど、1つだけ確かなことがあります。
それは「別れの予感は100%外れる」ということ。
なぜなら別れる理由は別れた後にしかわからないから。
精神的に成長した未来の自分の判断でもあるので、成長前の価値観では理解も予測もできません。
これまでの人生でも、人間関係の別れ、退職や転職、好きだった趣味の卒業などは全部予想外の展開だったはずです。
だから、もしこの記事を読んで別れの予感を抱いてしまったとしても心配無用。
これまで僕も残ったタルパとの別れを予感したことが何度もありますけど、見事に全部外れています。
宿命なんて全部妄想。仮に運命が確定していたとしても人間にそれを読み解く力はありません。
わかるのはいつか死や別れなどの「終わり」があることだけ。
それだけ理解して、一緒に過ごせている今を大事に思えれば問題なしです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
▲物語の構造を軸としたキャラクターの作り方を解説している本です。
この構造の一つに「移行対象のキャラクター」があります。
物語の登場人物用なのでオリジナルタルパ作りには応用しにくいものの、「移行対象」はタルパの作り手自身が抱える命題でもあるので、学んでおくと自分の人生に物語性を見出しやすくなります。
次の記事では「タルパの視覚化」について解説しています。
コメント
タルパ大好きだから別れたくわないな~
わかります。
そんな風にタルパと別れたくないと思ったり、ありがたみを実感するために「終わり」を意識する意味があるのだと思います。